発達障害、学習障害、多動・不注意、ASD、アスペルガー障害、不登校  
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   発達障害の教育指導・研究動向

 最近の研究動向およびトピックス
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以下では、SKCキッズカレッジスタッフや関係者の研究動向および関連するトピックスを取り上げます。
 2020年  
 NHKBSプレミアム 「ナチスとアスペルガーの子どもたち」こぼれ話し
2020年11月26日 夜9時~10時、12月1日夜11:45~12:45

 番組は長時間の収録の後、一時間番組に編集されたため、多くの内容が放映されませんでした。
 第一は、番組の主旨が、科学の光と影にあり、ハンス・アスペルガーとナチスとの関係に焦点が当てられていたので、それ以外の部分は極力除外されました。これは番組編集上当然のことであり、やむを得ないことです。ただ、番組を見ていた人のなかには、アスペルガー症候群(障害)とハンス・アスペルガーの自閉症研究の方に興味があったという人もいたのではないかと思います。
そこで、右の欄に、いくつか放映されなかった部分について、右のコラムに補足をしておきます。
 1,自閉症研究のカナーとの関係、自閉症研究者としてのアスペルガーの側面についてはごく断片的にしか語られませんでした。「アスペルガーは自閉症研究者としては幸せではなかったのではないか」という結論部分しか語られませんでしたが、その前にその理由がありました。
(1)オーストリア治療教育学の指導者としてのアスペルガーは当時のドイツ語圏障害児教育の中では病理的教育論者として評価はきわめて低かったこと、
(2)1944年の博士論文でさえ、オーストリアでは生存中はほとんど「忘れ去られていた」こと、つまり、オーストリアにおいてさえ自閉症研究者としてのアスペルガーの評価は高くはなかったこと、それはなによりアスペルガー自身が自分の研究にに触れようとしなかったこと、
(3)その研究がナチスの「安楽死」政策の時代に翻弄されたこと、
(4)アスペルガー死後の自閉症研究者がハンス・アスペルガーをナチスの「安楽死」政策に対する抵抗者であったと評価したことに対する歴史家の批判があったこと、チェフの研究の動機はその評価を改めることに向けられた。
(5)ウイングとフリスが、アスペルガーの研究を自分たちの自閉症研究の文脈に流し込んで、「自閉性精神病質」を自閉症の量的スペクトラムに改変したこと、など。ハンス・アスペルガーの自閉症研究はいまだに正しく評価されていないのではないか、などの議論の結論として、上記の「アスペルガーは自閉症研究者としては幸せではなかった」ということになります。
カナーとの関係、カナータイプとアスペルガータイプの関係などはほぼカットされました。
また、NHKとしては、アメリカの国内団体の診断マニュアルであるDSMを取り上げることはしないで、WHOのICDが対象となるので、DSMの部分もカットされたたため、日本の自閉症研究、自閉症診断に関わる人にとっては奇異に映ったのではないかと思いますが、そういうNHKの事情からです。

2,アスペルガー障害の診断と教育的側面について
 番組には「アスペルガー医師とナチス」の著者のエディス・シェファーも登場し、アスペルガーは知的に高い子どもたちには高い教育をし、教育不可能と診断された子どもたちは積極的にナチスの障害者殺しに協力した、というようなことを言っていましたが、この人にはずいぶんと違和感を感じました。
番組でも言いましたが、第1に、アスペルガーの施設に収容された子どもたちは最初から知的に高かく有能だと診断されたわけではなく、おそらくはじめは全員が教育不可能とみなされて送られてきたはずです。それをアスペルガーの治療教育施設で教育をすることによって高い能力を発揮すると言うことが証明されたということです。第2に、治療教育施設の子どもたちの教育の様子がアメリカ人のルポによって当時のまれな教育が行われていたことが明らかにされています。さらに、窪島の論文では紹介しましましたが、アスペルガーの治療教育施設では知的に高い子どもだけを教育の対象としたのではなく、施設内に二つの教育の場(学童保育のようなもの)をつくり、一つは学習を中心にした「学習の場」、もう一つはあそびを中心とする「遊びの場」で教育をしていたという記録があります。そこでは教育不可能とみられた子どもたちにも教育を行ったと言うことでしょう。シェファーは、アスペルガーの時代の教育不可能という診断を断罪していますが、これは全く非歴史的な見方で、例えば、日本の文部省は、遅くても60年代まで「教育可能」「教育不可能・訓練可能」「保護対象」という3分類政策をとっていたことは明らかです。これに対して、日本では60年代から70年代に、世界的にもまれな「発達保障」という理念を掲げて、障害者の教育権運動が巻き起こりました。
番組でも触れましたが、ドイツでは今年、医師から「教育不可能」の診断を受けたため、学校にも行けない子どもが出ているという報告がありました。
研究者が、体制の枠内にとどまりつつ、教育不可能という診断を受けた子どもを救うためには、研究の枠内で考えるならば、その基準を下げ(広げ)、「教育可能である」と主張するという方法しか存在しないのではないでしょうか。体制の枠を飛び出し、レジスタンスに身を投じるか、亡命の道を選択するかでなければ。残念ながら、アスペルガーにその選択はありませんでした。

今日の自閉症研究にアスペルガーが提起する最大の問題は、自閉症の子どもたちは教育することによってこそ(のみ)発達すると述べていること、教育を通して診断をするということだろうと思います。この点では、今日の自閉症研究は、当時のアスペルガーにも及びません。とりわけ、高機能自閉症とアスペルガー障害の間にある大きな違い、とりわけ高機能自閉症者の大きな困難を明らかにすることが今日の課題といえます。それは、キッズカレッジの実践的課題でもあります。

3,優生学思想は、過去のものではないと言うことです。当時も世界的に大流行していた思想と運動であり、今日にも新しい形で引き継がれています。
ハンス・アスペルガーはカトリック優生学思想に染まっていました。しかし、チェフのように、それをナチス優生学と同一視することは違うように思います。この点は、さらに科学的に明らかにされることが必要だと思います。

4,番組で取り上げられたアスペルガーの側面があるにしろ、その積極的な側面、自閉症研究における「教育的なるもの」、「子どもの人格の全体性」への着目、高機能自閉症とは異なるアスペルガー障害の特徴など、今日に引き継がれるべき遺産は正当に受けつがれるべきであろうと考えます。何よりそれは、今日の自閉症教育の実践の発展にとって必要不可欠です。


 2019年  
   
著書
〇窪島務:発達障害の教育学-「安心と自尊心」にもとずく学習障害理解と教育指導、文理閣、2019年1月20日

 
 2018年  
論文
〇窪島務:NPO法人滋賀大キッズカレッジ学習室の理念と実践. 総合リハビリテーション。第46巻第4号,2018年4月10日, 329-332
学会発表
〇深川美也子
 LD学会ポスター発表
 
 2017年  
SNE学会(埼玉大会)に参加しました。
 ラウンドテーブル

〇教育科学研究会に参加しました。
教育講座①
(8月10日)
子どものつまづきはどこから:子どもの躓きの原因は教師の授業力にあるのか?子どもの額種の現実からその原因を探ります。 担当:窪島務
 
 2016年  
論文
〇久保田あや子・堀口真理子・窪島務:青年前期の発達障害者の特徴と教育課題-滋賀大キッズカレッジ学習室生徒の高校入学前後の変化、滋賀大学教育学部紀要第25巻、2017.3
〇石垣雅也・窪島務:担任ができる実践研究の可能性についての予備的考察-「学習感想」を活用した「子どもの声を聴く」実践研究を通して-,滋賀大学教育学部紀要第25巻 2017.3
 
学会活動
SNE学会(金沢大会)
自由研究
〇久保田璨子・堀口真理子:発達障害ある人の青年前期における飛躍的発達の事実について(報告1)-保護者へのインタビューとアンケートを通じて-

〇深川美也子幼児の音韻意識の発達とひらがな読み習得の関係
〇深川育実・窪島務:正しく書かれた漢字に隠された書字の困難 ―読み書き障害児における漢字書字困難の特徴―
 
   
 2015年   スピィルバーグ ディスレクシアを告白
     
ここから  (https://www.youtube.com/watch?v=OETxe4Zrn28)
論文 
「H.Aspergerとアスペルガー症候群-アスペルガー症候群理解の前提として-
     滋賀大学教育学部紀要第65号(2015) 101-118, 2016.3
       ⇒ここから
  これまでほとんど触れられてこなかったハンス・アスペルガーの研究方法論、「教育者」としての側面、キー概念としての「教育的なるもの」が明らかにされています。
 
学会発表
SNE学会ラウンドテーブル:滋賀大キッズカレッジの指導理論・方法と発達障害児の発達的変化
   報告はここから  ①企画趣旨②深川提案③堀口提案④久保田提案⑤窪島提案⑥指定討論石垣

SNE学会課題研究提案:ドイツにおけるインクルーシブ教育の現状と課題(窪島)→ 提案資料