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PDD(広汎性発達障害)・アスペルガー症候群と学習困難 |
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項目
□ICD-10
□広汎性発達障害
□アスペルガー症候群
□診断基準(ICD-10)
□診断基準(DSMーW)
□文科省チェクリスト
□アスペルガー症候群の併存障害
□アスペルガー症候群と学習障害(読み、書き、計算・算数)
□
広汎性発達障害(ICD-10 臨床記述と診断ガイドライン 医学書院)
相互的な社会関係とコミュニケーションのパターンにおける質的障害,および限局した常同的で反復的な関心と活動の幅によって特徴づけられる一群の障害.程度の差はあるが,これらの質的な異常は,あらゆる状況においてその患者個人の機能に広汎にみられる特徴である.多くの場合,幼児期から発達は異常であり,ほんのわずかな例外を除いて,この状態は生後5年以内に明らかとなる.常にではないが通常は,ある程度の全般的認知機能障害がある・しかしこの障害は個人の精神年齢(遅滞のあるなしにかかわらず)に比較して偏った亘塾によって定義される.広汎性発達障害の群全体の下位分類については,多少の見解の不一致がある.
−部の症例では障害は,いくつかの医学的な病態にともなっているか,あるいは原因となっているようで,そのうちでは乳幼児けいれん,胎児性風疹,結節性硬化症,脳リビドーシス,脆弱]染色体異常が最もふつうである.しかしながら,この障害は合併する医学的な病態のあるなしにかかわらず,行動的特徴に基づいて診断すべきである.しかし,この病態は別にコード化しなければならない・もし精神遅滞が存在しても,それは広汎性発達障害に普遍的な特徴ではないので,別にF70−F79にも分類することが重要である
広汎性発達障害の分類
・小児自閉症[自閉症]
・非定型自閉症
・レット症候群
・他の小児期崩壊性障害
・精神遅滞および常同運動に関連した過勤性障害アスペルガー症候群
・他の広汎性発達障害
・Pervasive developmental disorder,unspecified 広汎性発達障害,特定不能のもの
F84.5 アスペルガー症候群 Asperger’s syndrome
(ICD-10 臨床記述と診断ガイドライン 医学書院)
疾病分類学上の妥当性がまだ不明な障害であり,関心と活動の範囲が限局的で常同的反復的であるとともに,自閉症と同様のタイプの相互的な社会的関係の質的障害によって特徴づけられる.この障害は言語あるいは認知的発達において遅延や遅滞がみられないという点で自閉症とは異なる.多くのものは全体的知能は正常であるが,著しく不器用であることがふつうである;この病態は男児に多く出現する(約8:1の割合で男児に多い).少なくとも一部の症例は自閉症の軽症例である可能性が高いと考えられるが,すべてがそうであるかは不明である.青年期から成人期へと異常が持続する傾向が強く,それは環境から大きくは影響されない個人的な特性を示しているように思われる.精神病エピソードが成人期早期に時に出現することがある.
診断ガイドライン
診断は,言語あるいは認知的発達において臨床的に明らかな全般的な遅延がみられないことと,自閉症の場合と同様に相互的な社会関係の質的障害と行動,関心,活動の,限局的で反復的常同的なパターンとの組合せに基づいて行われる・自閉症の場合と類似のコミュニケーションの問題は,あることもないこともあるが,明らかな言語遅滞が存在するときはこの診断は除外される.
〈含〉自閉性精神病質
小児期の分裂病質障害
〈除〉強迫性人格障害(F60.5)
小児期の愛着性障害(F94.1,F94.2)
強迫性障害(F42.−)
分裂病型障害(F21)
単純型分裂病(F20.6
F84.5 アスペルガー症候群 Asperger’s syndrome(ICD-10、DCR研究用診断基準 医学書院1994)
A.表出性・受容性言語や認知能力の発達において,臨床的に明らかな全般的遅延はないこと.診断にあたっては,2歳までに単語の使用ができており,また3歳までに意思の伝達のために二語文(フレーズ)を使えていることが必要である.身辺処理や適応行動および周囲に向ける好奇心は,生後3年間は正常な知的発達に見合うレベルでなければならない.
しかし,運動面での発達は多少遅延することがあり,運動の不器用さはよくある(ただし,診断に必須ではない).突出した特殊技能が,しばしば異常な没頭にともなってみられるが,診断に必須ではない.
B.社会的相互関係における質的異常があること(自閉症と同様の診断基準).
C.度はずれて限定された興味,もしくは,限定的・反復的・常同的な行動・関心・活動性のパターン(自閉症と同様の診断基準.しかし,奇妙な運動,および遊具の一部分や本質的でない要素へのこだわりをともなうこ
とは稀である).
D.障害は,広汎性発達障害の他の亜型,単純型分裂病(F20.6),分裂病型障害(F21),強迫性障害(F42∴),強迫性人格障害(F60.5),小児期の反応性・脱抑制性愛着障害(F94.1およびF94.2),などによるものではない
1.社会性の欠陥(極端な自己中心性)(次のうち少なくとも2つ)
(a)友達と相互にかかわる能力に欠ける
(b)友達と相互にかかわろうとする意欲に欠ける
(C)社会的な合図の理解に欠ける
(d)社会的・感情的に適切さを欠く行動
2.興味・関心の狭さ(次のうち少なくとも1つ)
(a)ほかの活動を受けつけない
(b)固執を繰り返す
(C)固定的で無目的な傾向
3.決まりや興味・関心の押しつけ(次のうち少なくとも1つ)
(a)自分に村して、生活上で
(b)他人に対して
4.話し言葉と言語の特質(次のうち少なくとも3つ)
(a)発達の遅れ
(b)表面的には誤りのない表出言語
(c)形式的で、もったいぶった言語表現
(d)プロソデイ(韻律)の奇妙さ、独特な声の調子
(e)表面的・暗示的な意味を誤解するなどの言語理解の悪さ
5.非言語コミュニケーションの問題(次のうち少なくとも1つ)
(a)身ぶりの使用が少ない
(b)ボディランゲージ(身体言語)のぎこちなさ・粗雑さ
(C)表情が乏しい
(d)表情が適切でない
(e)視線が奇妙、よそよそしい
6.運動の不器用さ
神経発達の検査成績が低い
出典:Gillbe陀andGillbe陀1989.Gillbe陀1991.
アスペルガー症候群の診断基準(サトマリによる)
1.社会的孤立(次のうち少なくとも2つ)
(a)親しい友達がいない
(b)人との接触を避ける
(C)友達作りに関心がない
(d)自分ひとりの世界を好む
2.社会的相互作用の欠陥(次のうち少なくとも1つ)
(a)自分に必要なときだけ人と接する
(b)人への接し方が不器用
(C)友達に村する一方的な接し方
(d)人の気持ちを感じ取るのが困難
(e)人の気持ちに無関心
3.非言語コミュニケーションの欠陥(次のうち少なくとも1つ)
(a)表情が乏しい
(b)子どもの表情から感情を読み取れない
(C)目で意思を伝えることができない
(d)ほかの人に視線を向けない
(e)手を使って意思を表現しない
(り身ぶりが大げさでぎこちない
(g)人に近づきすぎる
4.話し言葉と言語の特質(次のうち少なくとも2つ)
(a)抑揚のおかしさ
(b)口数が多すぎる
(C)口数が少なすぎる
(d)会話に一貫性がない
(e)一種独特な言葉の用い方
(り繰り返しの多い話し方
出典:Szatmarietal.(1989)
自閉性障害とアスペルガー症候群
自閉性障害は、1.対人的な情緒的交流の欠如、2.強いこだわりや興味の局限など想像力と行動の障害、3.言語的・非言語的コミュニケーションの障害を共通の特徴とする幅広い症候群です。古典的には、次のように重度の発達遅滞を伴うカナー・タイプと知的遅れのないアスペルガー・タイプの2つのタイプがあるといわれているが、近年ではそれらを含めて連続して捉える見方が有力であり、イギリスのローナ・ウイングが提唱した「自閉症スペクトラム」という用語が用いられることが多い。
カナー・タイプ
アメリカの児童精神科医のレオ・カナーが1943年「早期幼児自閉症」を報告した。これまで日本で自閉症といわれてきた子どもたちは多くがカナー・タイプの子どもたちで、対人的引きこもり、同一性保持、特定のものへの興味と比較的高い操作的能力、言葉の発達が遅れたり、オウム返しや代名詞の逆転などの言語的異常、時に部分的に高い能力などを特徴としている。重度の発達遅滞から記憶力など部分的に高い能力までの広がりがあるが、その多くは重度の発達の遅れを伴う。その他、身振りの理解など非言語的理解が悪く、身体のある部分の常同行動を示すことも少なくない。
アスペルガー・タイプ
小児科医のハンス・アスペルガーは、ウィーンで奇しくもカナーの報告の1年彼の1944年に、カナーとはまったく無関係に、「自閉的精神病質」に関する論文を発表した。
アスペルガー症候群の特徴は、社会性の欠如、興味・関心の狭さとこだわり、非言語的コミュニケーションの障害(身振り、情緒的理解困難)、運動の不器用さ、表面的な言葉の発達の遅れはないが、形式的で、行間を読むことができないなどの特徴が見られる。一見すると特別な問題がなく、日常生活に困難はないようであるが、対人性に著しいつまづきがあり、当人の内面での悩み、しんどさ、周囲の違和感には大きいものがあり、特別なニーズを持っている。
医学的診断では、多くのサブタイプを含む自閉症圏の障害を総称して、「広汎性発達障害」(PDD)とよんでいる。「自閉症スペクトラム(連続体)」という用語が使われることもある。また、知的に高い自閉症を特に「高機能自閉症」ということもあるが、「高機能」という言葉が、発達の遅れがないことを意味しているのか、平均以上の知的能力があることを指しているのかはっきりしない。医学的には、発達の遅れがないことを意味することが多いが、心理学的、教育学的にはなじみにくいところがある。また、高機能自閉性障害とアスペルガー症候群の関係については議論があるところである。
通常、自閉症とアスペルガー症候群の診断上の違いは、幼少時(3歳ないし5歳まで)に言葉の発達の遅れか異常があった場合には自閉症とする点が唯一の相違点になっているが、アスペルガー症候群の診断基準はまだ確定的なものでなく、今後他の観点を含めて検討されることになるものと思われる。
出現率は、高機能自閉性障害及びアスペルガー症候群という概念によって大幅に上昇し、100人に1〜2人といわれる。
アスペルガー症候群は、言語の発達の遅れが見られないことが診断的な違いとなっているが、この点には異論を持つ臨床医が少なくない。また、DSM-Wでは広汎性発達障害と次に述べる注意欠陥多動性障害とは排他診断であり、広汎性発達障害が優先される。すなわち、重複した症状を呈する場合にはそのうちの一方の広汎性発達障害の診断名だけがつくことになっているが、実際には多くの臨床医がそれらの重複診断を行っており、また広汎性発達障害にもADHDと同様の薬物治療が有効であるといわれている。したがって、今後こうした診断基準が変更される可能性は少なくない。